top of page

連載第1回目の今回のテーマは、『薪ストーブ屋さんの頭のなか』。

更新日:2022年11月29日

役場の農林課から薪ストーブ屋さんになるまでのことを話していたら、『自給力のある暮らし』という話題になりました。






❶薪ストーブとの出会い






純:今回は、久富さんと薪ストーブの出会いからお話を伺えればと思うのですが。


久:僕はね、実は自称『世界一の寒がり』じゃったんよ。本当に寒がりだったけえ、どうにかしたいなと思った時にたまたま薪ストーブという存在を知って。ホームセンターの薪ストーブからスタートしたんよね。


純:そうだったんですね。自分の寒がりをいかに解消するかという点からのスタートだったと。


久:そうそう。家を建てたときに、家を作ってくれた人がその薪ストーブを設置してくれてね。そもそもこの家はオール電化じゃけえ、設計上、薪ストーブの『ま』の字も考えとらんかったのよね。


純:本当にたまたまの出会いですね。


久:僕が津和野町の林業農林課の林業係になった時に、「林業のこと全く知らないから、木をチェンソーで切ってみるところから始めよう」みたいな話をしていたこともあって。そしたら、切った木をどうしようとなるんよ。それやったら、今度は薪にしてみようと。たまたま入れた薪ストーブだったけど、その燃料となる薪から自分で確保できるようになったことで薪ストーブがより身近になったよね。






❷薪ストーブ屋のスタート






純:薪ストーブが暮らしに馴染んでいく中で、どのようにして薪ストーブ屋を生業にしようとなっていったのですか。


久:僕は農林課に10年おったんだけど、その中で自分なりに林業をやり始めて。週末林業ね。


純:週末林業ですか!?どんなことをされ始めたのですか?


久:自分の家の山があるけえ、そこで木を切って市場に出したりとかね、そんなことをしとった。


久:その週末林業をやる中で、「役場を辞めたときには林業をやろう。切った木は薪として販売してみよう。」という想いが芽生えてきて。


純:なるほど。薪を使うというご自身の暮らしでの経験がそこで活きてくるんですね。


久:そう。でもね、今のままじゃ薪を売ろうとしても薪を買う人がおらん状況だったんよ。それじゃあ、薪ストーブ屋さんをやらないけんと思ってね。それがきっかけかな。


純:そこからどういう一歩目を踏み出したんですか?


久:いざ薪ストーブ屋さんを始めようとなった時、ふと目にしたのがfire sideさんのホームページで。そこに『薪火で遊ぼう』『薪火を楽しもう』と書いていて、それを見てもう、ものすごくワクワクしたんよ。




久:そして、僕、その後すぐにfire sideさんにビックリするくらいの長文をメールで送って。


純:行動がめちゃくちゃ早いですね!どんな内容を送ったんですか?


久:「僕は薪ストーブの〜〜というところに感銘を受けて。」とか「薪ストーブを販売したい、広めたい。」とか、本当に気持ちをそのまま綴るような形だったね。そこから電話でもいっぱい話して。


久:fire sideさんは、ただ単純に薪ストーブを販売するのではなく、「ちゃんと自分で施工をして、設置した後も自分でお客さんをフォロー出来てはじめて薪ストーブ屋である」と。そして、話をしていくうちに担当者さんに僕の思いがすごく伝わったみたいで、「松江のRustic Craftに戸谷さんという方が居るので、一度行ってみて。」と繋いでもらって。


純:すごい展開ですね!


久:そうそう。そして戸谷さんに会いに行って、こういう想いで薪ストーブ屋さんをやりたいんですとお話したら「わかった。応援するから頑張れ。」とその日の内に言ってくれて。僕は全くの素人だったけれども、現場に一緒に入ってもらって、そこから薪ストーブ屋としてスタートすることになったんよね。


久:今年から自分一人での工事をしてるんだけど、それまではずっと現場で指導をしてくれて、師匠には感謝ばかり。今もいろいろ相談したり、アドバイスをもらっていますね。







❸手間がかかることの豊かさ









純:僕自身も薪ストーブを久富さんに入れてもらったのですが、一番最初の火入れの瞬間はなんか特別なものを感じますよね。


久:そうそう。薪ストーブ屋さんって、もう本当に幸せなんよ。


純:もっと聞きたいです!


久:だってね、火を入れたら皆さんが満面の笑顔でワクワクした表情になるんよ。そして、1年後にメンテナンスに行って掃除すると、綺麗になった薪ストーブを見てまたすごい喜んでくれて。最後には「はい、みかん持って帰りんさい」とか言ってくれるんよ。


純:いいですね・・・。


久:正直、こんな幸せな商売はないって思うんよね。


純:僕も久富さんにメンテナンスに来てもらった時には、なんだかより薪ストーブに愛着が湧きましたし、薪ストーブには不思議な力がありますね笑


久:今の世の中、ボタン一つで暖を取ることなんて簡単じゃない。


純:そうですね。


久:その中で、薪作りから始まって、薪を積んで、いざ火をつけたらいちいち薪をくべなきゃならんっていうのが薪ストーブじゃけえ、それはキチンと伝えるようにしてる。


久:「あなたの今までの生活がガラリと変わりますよ。」と。そんな暮らしを面倒と思うのか、幸せと思うのか。


純:大事なことですね。


久:いざ設置したけど「めんどくさい」って言われたら、やっぱり可哀想じゃんね。「薪ストーブ、いいですよ!」っていう押し売りじゃなくて、しっかりその部分を伝える、そんなことを最近は特に意識してるかな。


純:僕も日々の仕事が忙しい中で『薪の世話をする』というクッションがあることで、深呼吸して一息入れることができている気がしますね。


久:じゃろ。特に僕自身、役場時代が本当に時の流れが早くて。


純:とっても忙しいイメージがあります。


久:本当に目が回るほどで、そんな中で週末に仕事がない時に薪ストーブの前で本を見とったら、めちゃくちゃ時間がゆっくり流れるんよ。


純:わかります・・・。ビールやコーヒーを飲むのもいいですよね。


久:わかる。薪を眺めている時間もそう、薪をくべる時間もそう。そんな時間を作れるってことがとっても大事。せかせかしすぎる暮らしでは、ストレスが多くかかるよね。


純:僕、今まさにせかせかした暮らしになってますね笑 でも、薪ストーブがそんな暮らしの中で『間(ま)』をストンっと作ってくれているような感じがします。


久:そうだね。レコードなんかと近いかもね。携帯でタップして音楽がすぐに再生されるのもええけど、どれをかけようかなと選んで、針をスッと落として音が鳴るまでの時間を楽しむみたいな、ね。








❹自給力のある暮らしを、薪ストーブから






純:薪ストーブ屋さんとして日々過ごされる中で、役場に勤めていた頃から『変わらない考え』はありますか?


久:そうね、『自給力のある暮らし』がこれからの世の中で必要になるということかな。そのためにも『いかに地域の資源を循環させるのか』が大事なことかなと思っていて。


久:例えば農業だったら、法人を作って大きい組織で野菜を作るよりも地域の小規模の農家さんが集まって色んな野菜を作ることの方が面白いし、資源は地域で循環すると思っているんよね。


久:林業もそう。何千万円もする林業機械を買って使用するのではなくて、町に住む一人ひとりが自分で木を切って、山を綺麗にして、その結果として薪をもらって、自分の暮らしのエネルギーに変える。


純:その暮らしがまさに『自給力のある暮らし』だと。


久:そういうこと。薪ストーブというものに出会い、そんな暮らしを営んでいく人を増やしていくことが、僕の薪ストーブ屋さんとしての目的であり、使命なのかなと思うよね。


純:なるほど。薪ストーブというものは、暖を取る・ゆっくりとした時間を過ごすためだけのものではなさそうですね。


久:そうそう。僕はよく「安心な暮らしを増やす」という言葉を使うんじゃけど、電気やガスのように『誰かから安心を与えてもらう』だけではなくて、『自分が安心できるものは、自分で生み出す』ということがこれからの社会で大事になるのかなと思っているね。


久:みんなで木を切って、薪を作るような地域があったら、その地域は本当に『強い』。

純:そうですね。停電しましたとなっても、みんなの薪があるから暖は取れるし、明かりもあるし、料理もできる、と。


久:まさにそれが『安心できる、自給力のある暮らし』なんよね。


久:だから僕は薪ストーブ屋さんとして地域に薪ストーブを増やすことで、仮に電気がなくなったとしても地域の人たちが安心して過ごせる世界を作りたいって思うかな。その地域は生きる力がとっても強い。


純:そんな町があったら住みたくなる人、多くなりそうですよね。


久:そうそう。自分たちが安心できる暮らしのために山の木を切る、適切に管理された山は獣害・災害リスクが減る、それでいて自分たちはエネルギーの確保ができる。津和野だからこそできる暮らしでもあるよね。


純:その意味で津和野には拡がる可能性が大いにあるんですね。



bottom of page